今回から、この欄を担当することになりました。色々なテクニックを取り上げ、特に若い方々を対象とした内容の濃いものにしようと思います。
まず、第1回目に取り上げるのは、第4オクターヴの「E」、通常「ハイE」と呼ばれている音の発音・演奏法です。11月に開催された、第18回日本管打楽器コンクールの第1次予選の課題曲、Bozza作曲”Recit,Sicilienne et Rondo”のシシリエンヌの最後にあるEのオクターヴの跳躍でかなりの人が失敗していたことから、この音を選ぴました。

　まず、フィンガリングから解説します。私個人は、この音のフィンガリングを10数種使い分けますが、ここでは、ハイD、ハイEキーの付いていない、最もシンプルな楽器でも演奏できるものを紹介します。(図、参照)
(1)は最もオーソドックスなもので、おそらく多くの人がこのフィンガリングで演奏していたと思いますが、低音のDのキーを加えることによって、発音が容易になることが有ります。ラヴェルのピアノ協奏曲の「C# → E」の際に有効です。
(2)は、大低の楽器に有効なもので、私はこれを最も多く使います。

　次に、一番大切なアンブシュアについて。ファゴットという楽器の広い音域をカバーするためには、良いリードとともに、柔軟なアンブシュアが不可欠です。ここで注意しなけれぱならないのは、最低音のB♭からハイE半音下のE♭までは、アンブシュアの変化はなだらかで、エラスティック、つまりゴムを引っ張るように変化しますが、このハイEを境に、急激な変化をします。具体的にいえぱ、より高いリードのピッチが要求されます。ここで、誤解されやすいのは、ピッチを上げるために意識が唇だけにいってしまうことです。ピッチは唇による上下からの圧力でも上がりますが、息の圧力によっても上がります。多くの人が失敗するのは、唇を締めすぎることにより、息の圧力が低下してしまうことが原因です。唇とともに、息の流れを大切にする事です。

　最後に、このボザの作品を演奏する上でのテクニックを紹介します。
楽譜をご覧になるとわかりますが、最後4小節からrit.(plus lent)が始まり、ピアノの動きも大まかになります。さらに、最後のフレーズには、a piacere、つまり「自由に」としるされており、さらにハイEの直前には、ピアノのアルペジョの導入があります。前述したようにハイEの際にはアンブシュアのリセットの時間が必要ですから、�@まずrit.を十分にして全体のテンポを遅くします。�A次に、最後のフレーズでさらにrit.を大きくし、音譜(特にh→c#→e)の間を長くします。�B従って、ピアノのアルペジョはゆっくりしたものになり、この間にアンブシュアをリセットします。

　今回のコンクールの演奏では、最後のフレーズでa piacereができなかった人が多く、リセットの時間を十分にとれなかったようです。