田中	特に初心者や学生たちにバスーンの勉強法についてアドヴァイスされるとしたら、どんなことを?
ポラード	弦楽器では最初に大切なこととしてボーイング(弓のコントロール)の重要性を強調しますが、バスーンでも、楽器を始める時に最も大切なことがこのボーイング　−　つまり管楽器で言えばブローイング、呼吸法です。 　この呼吸法を正しく行うための、あるいは正しく行っているかどうかをチェックするためのひとつの方法があります。それは、バスーンの中音域以上の音をタンギングなし、て吹いてみる、ということ。これによって横隔膜の動きが意識されます。タンギングをすると、意識がいつも舌の先に集中してしまい、筋肉が硬直するという現象が起きますし、それに伴って喉が閉まってしまうことがあります。ですから時々タンギングなしで吹いてみて、横隔膜をチエックしてみることが必要です。この呼吸法が、バスーンを正しく演奏するための基本的な土台となります。 　指導者は、生徒の喉がいつもリラックスしているかどうかに充分な注意を払う必要があります。喉が閉まるという悪いクセがつくと、これは取り除くのは大変困難です。また、もうひとつ重要なことは、身体的な問題ですね。ほとんどのバスーンのキーの問隔、またトーンホールの間隔が広過ぎるために、指を無理矢理広げたり緊張させたりする事態が起きます。これによって腱しょう炎などの様々な障害が生じる可能性があるのです。 　これからのバスーン・メーカーは、プレイヤーに肉体的な無理がかからないような、特に指に負担がかからないようなデザインを採用すべきですね。これは非常に大事なことで、現に私も自分のバスーンのキーの位置を変えているくらいです。
田中	どのように変えていらっしゃるのですか?
ポラード	指を無理矢理広げなくてもよいように、キーのレイアウトを変えました。また、バスーンには5つのオープン・フィンガーホールがありますが、この中の左手第一フィンガーホールを除いたすべてのホールをカップでおおってあります。この他、ダプルジョイントのキーなども寄せて、ごく自然な手の状態、つまり無理に手を広げなくとも演奏できるようにキーをずらしてあります。

ポラード氏の楽器
ヘッケル12000番代。テナー・ジョイントのみ替えてあるのが分かる。また、ブルーク・タイプのボーカル、
それにトーンホールのカップとキーの配置などに注意。下の2枚の写真は膝当てを写したもの。

田中	ポラードさんの楽器を拝見すると、テナー・ジョイントだけが別物に見えますが‥
ポラード	私の現在のこの楽器は2本目に当たリ、ヘッケルの12000番代のシリーズですが、しかしテナージョイントだけは1本目の楽器（9000番代のヘッケル)のものをつけているんですよ。その理由は、この楽器(12000番代）のオリジナルのテナー・ジョイントではピッチが低すぎて、音程がとれないからなんです。それを解決するために、前の楽器のテナー・ジョイントを約15ミリほど短くしてこの楽器につけて演奏しています。 　ボーカルはヘッケルのBBDの2番で、デサインはギディオン・ブルーク・タイプ。このブルーク・タイプのカーブは、何も音響的な利点を生むためにデサィンされたものではなく、プレイヤーの好む角度、つまリ楽器を寝かせて吹くような奏者のためにデサインされたものです。以前はBBD2番のノーマルなベントのボーカルを吹いていました。 　なぜこのボーカルを使っているかと言うとこの楽器にとってはこのボーカル以外のものだとオクターブがとれないからなんてす。他のボーカルCCやCDでは、オクターブが狭くなってしまう。そのためにこのボーカルを使っているわけですが、それぞれの楽器、それぞれのプレイヤーはやはリ一本一本その楽器や奏者に合ったボーカルを使うべきですね。
田中	リードについてはどのようにお考えですか?
ポラード	これはあくまでも私自身のパーソナルな意見ですが、リードにおいて大変重要だと思うことのひとつは「抵抗」ですね。リードが自由に振動し過ぎると逆にこれをコントロールするために唇が緊張してしまいます。もちろん、抵抗が強過ぎれば今度はリードをかむという上下の圧力を加えることで、唇の緊張が起きてしまいます。ですから私は、ある程度の抵抗感があり、しかも唇で押さえつけなくとも鳴るリードが良いリードだと考えるのです。このようなリードは倍音を豊かに含み、ホールの中でもよく響さます。が、あくまでもこれは私個人の意見だと考えて下さい。
田中	バスーンの演奏について若い人たちにアドヴァィスするとしましたら?
ポラード	特にバスーンを勉強中の若い方たちに申し上げたいのは、バスーンを会話のように、人問の肉声で語りかけるように演奏することを推めたい。つまり、我々が日常話す言葉の中には、はっさりとした表情がつけられています。決して伝報文を読み上げるような棒読みにはなリませんね。音楽も全く同じで、そのようにエクスプレッシプ（表情豊か）であるべきです。ひとつの音を吹く時でも、ブザーが鳴り出すように唐突に始まり、唐突に止まる、そんな演奏にならないように。このような音を我々はデッド・ノートと呼ぴますが、ストラヴィンスキー等が意図的にそんな音を要求している場合以外では、使うべきではありません。音は白然に消えていくべさもので、喋る声のような自然な抑揚、自然な動きがある　−　そうあるべきです。
田中	長時間、どうもありがとうございました。