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リードの振動を楽器本体に伝えるバスーンのボーカルはまたそれ自体の音色ももっている。
その意味でボーカルは、リードと同じように楽器を制する重要なファクターだ。
そのメカニズムと特性を徹底解剖するバスーニスト必読の特集!!

田中 雅仁 (ベルギー国立歌劇場交響楽団首席バスーン奏者)
聞き手 三木秀彦(バスーン奏者)

このインタビューは、去る2月18目ブリュッセル郊外のワーテルローで行われた
田中氏の「モダン・リード・メイキング」講座を補足するかたちで、
三木氏が聞き役に立ちまとめられたものです。


ブリュッセルの田中さんの自宅でボーカル談義に花をさかせる田中氏と三木氏

ヘッケル社のボーカルの種類
三木 まず最初に、ボーカルの役割というのはどういうものでしょうか?
田中  ファゴットのボーカルは他の楽器で言うと、フルートのリップ・プレート、オーボーのテユーブ、クラリネットの樽(バレル)の部分に当るわけです。その役割は、リードによって得られた振動の共鳴を楽器本体に伝えるだけではなく、ボーカル白体の振動が音色に影響を与えるということもあるわけです。
 それと、音色や音程だけじゃなく、リードとのバランスによるテクニカルなもの(例えばレガートや跳躍等)を支配する力というのが、かなり大きいわけですね。
三木 今回は、最も一般的に使用されているヘッケルのボーカルについて話して頂くわけですが、このヘッケルのボーカルには一体どのくらいの種類があるものですか?
田中  ヘッケル一社だけでも実に色々の種類があります。その種類を決定する条件のひとつは「長さ」、次に「材質」、「内径」、「メッキ」、「ボーカルの曲げ方」、「材質の厚さ」 − 大体以上が主な条件ですね。

 これを順を追って説明しますと、まず「長さ」ではOO番というものが一番短い。そこから4番までの長さがあります。その間5oずつの違いです。だから00と4とでは実際かなりの長さの違いができます。

 次に「材質」。一番多く作られているのは洋銀で、これは合金ですね。これにも何種類かあります。それから真鍮、ゴールドブラス(真鍮の一種で配合の違うもの)、銅(ブロンズ)、純銀(92.5%の銀を使用)、金(14K)。以上がヘッケル社が使用している材質です。

 次に「メッキ」(プレイティング)。これには5種類ありまして(メッキなしを含めれば6種類)、ニッケル・メッキ、銀メッキ、金メッキ、プラチナ・メッキ、そしてロデューム・メッキというのがあります。それぞれの性格については後で触れます。

 次に「厚さ」。これは2種類しかありません。いわゆるオリジナルの厚さ(0.6mm)と、もう少し薄いものがあってこれは0.5o。0.1oの違いです。

 「ベンド」つまりボーカルの曲げ方では、ヘッケル社が型を持っているのは2種類。それプラス、様々な注文によるものがあるわけです。つまり何々タィプとオーダーすれば出来てくるようなものが2〜3種類ほどあります。

 最後に「内径」(ボア)。これは大別して4種類あります。これについても後述します。
ボーカルの種類を決定する条件としては以上のようなものがあるわけです。

字(レター)の読み方

三木 今お話しになったことと、ヘッケルのボーカルに刻印されてある数字やアルファベットとはどう対応するわけですか?
田中  数字は長さを示すものでしかありません。先述しましたように00から4まで各5oずつの違いですね。
 次に材質を示すアルファベット - 第2次世界大戦以後に作られた新しいボーカルには、ほとんど材質に関するアルファベットが打ってあります。どこに打ってあるかと言うと、ボーカルのコルクのちょうど上の部分、ボーカルが曲がっている内側の部分にアルファベットが打ってあります。
これには数種類ありますが、それを解説しますとまず、「N」、「Z」そして「」この3種類は洋銀を示し、それぞれ配合の違い(洋銀は合金ですから)を表しています。人によっては、まあ敏感なプレイヤーの中にはこの違いが分かる人がいます。
次に「G」、「M」 − 「M」というのはブロンズ。銅のポーカルを指す字でして、「G」は普通の真鍮およびゴールドブラス(日本語には訳しようがない)を指す字です。
これ以外に「S」というのがありますが、この「S」はシルバーですね。92.5%の銀を使っています。以上が材質を示す字ですが、純金のものには特別これが打ってありません。

 次に、ノーマルなベンドのボーカルで言うと、根元の方からぐっと曲がってなだらかにおりてきた部分にも字が打ってあります。その中でまず注目しなければならないのは「内径」を示すものです。このボアの種類にはオーソドックスなものも含めて4種類あります。

 一番オーソドックスなものはCおよびCC。このCとCCは全く同じものなんです。CCというのは、現在のように色々なタイプが出る以前から使用されていたマークで、現在もそのまま使用されているもの、またCは、ある一時期、1977年〜78年頃のマークで、両者は全く同じものです。最近は混乱を避けるためか、また元のCCに戻っています。アメリカの学者の中には(これは分析したわけではないと思いますが)Cの方が多少重さが軽いなんていう人がいますが、ヘッケル社はこれは全く同じものだと発表しています。

 これに対位するボアとしてあるのがBというボアですね。これは簡単に言えばCに比べて内径が広いわけです。それで、昔の、いわゆるプリ・ウォー(大戦前)といわれているヘッケルのシリーズに合うといわれています。このプリ・ウォーの特性については後で説明します。

 内径には以上の2つを基本にしてひとつずつのヴァリエイションがあります。CのヴァリエイションはCE。これは基本的にはほとんどCと同じものですが、ティップ(ボーカルの先端)が細い。言い替えるとCよりもボーカル先端部のテーパーが強いということになります。Bの方のヴァリエイションにはBB(ダブルB)というものがありますが、これも同じようにBに比べて先端の方が細いという特徴をもっています。

 次は金属の厚さに関する字(レター)ですね。Dという字が打たれているものは薄いものを指します。Dとはドイツ語の(薄い)です。つまり最初にお話したようにノーマルなものは0.6oですから、これに対して0.5oの厚さを表わしています。

 ところで、以上の字(レター)に加えて、過去10数年以内のボーカルには「V」という字が打ってあるものがあります。これはヘッケルのボーカルの中で最も新しく開発されたものです。このボーカルの内径に関する数値や特徴は発表されていませんが、結果的に、第3オクターヴの音程をとるのが容易であるということ、それから古いヘッケルのバスーンを持っている人にも使えるように作られたものであるとも発表されています。