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ボーカルのカーブ
田中 次にボーカルのカーブの種類について説明します。
 座高の高い人や首の長い人で、ノーマルな曲がりのものを吹いた時に背中を曲げなければならないとか、楽器を上に持ち上げなければ正しい位置に(口の中に)リードが入ってこないという人がいます。こういう人たちのためにデザインされたものとして、フラット・ベンドという曲がりの少ないものがあります。ノーマルとフラットというこの2種が、ヘッケルで作る割と一般的な型です。


 これに比べて少し特殊なものとして、イギリスのバスーニスト、ウィリアム・ウォーターハウス(学者としても有名。BBC響のアシスタント・ファーストを長年やっている)という人がオーダーした、ウォーターハウス・モデルがあります。
 このボーカルは曲がり方がほぼ直角なんですね。90°前後の曲がり方をしています。ある位置からほぼ直角に曲がっているわけです。 ウォーターハウスはとても背の高い大きな人で、こうしないとノーマルなポジションにアムブシュアを作れないんです。通常はスパイク(ダブル・ジョイント底部につけるチェロのような脚)を使用します。そういうことから開発されたボーカルなので音響学的な目的で作られたものじゃありません。誤解のないように。
 もちろんリードの角度や唇への重さのかかり具合が普通のボーカルと違うので、それによって反応の違いは出てきます。

 もうひとつ、ギディオン・ブルーク・タイプというボーカルがあります。ブルークは、アーチー・キャムデンと並んで非常に有名な(もう引退しましたが)イギリスのバスーニストで、ロイヤル・フィルに長く在籍し、ロイヤル・ミュージック・カレッジでも教えていますが、そのブルークがオーダーしたものです。
 この人のボーカルは非常に特殊なもので、口ではうまく説明できませんが、ボーカルのオクターヴ・ホールの穴のほんの少し上からすぐに下に急角度で曲がっています。そして先端部直前3cmぐらいからまた少し上がり気昧になります。ボーカルの上部の、急に曲がった部分には金属の板がつきます(フラグ)。支えの意味でつけているのだと思いますが、これも音響的な目的でデザインされたものではありません。
 ブルークという人はネック・ストラップで吹く人で、その関係上どうしても重さが左腕にかかってきます。そのためか、ブルークの演奏姿勢は他の人と比べると非常に楽器が寝た状態にあります。水平に近くなっているんですね。そういった構えに合わせてデザインされたボーカルです。現在これを吹いているのは、ブルーク以外で非常に有名な人ではコンセルトヘボウの首席、ブライアン・ポラードがいます。

 ウォーターハウス・タイプ、ブルーク・タイプ、共にその人の演奏ポジションに合わせて考案されたものですが、これによって意図しない音響的な違いも出てきます。
 それを説明しますと、曲がりの浅いものほど息の抵抗が少ないということ。ボーカルをくわえてちょっと吹いてみると分かりますが、息がポーカルの内壁にぶつかります。これで抵抗が生じます。この抵抗の違いによって色々と倍音が生まれたりします。
 ノーマルなものはS字型に平均してぐるっと回っているわけで、フラット・ベンドのは、これに対してちょっと曲がりが少ないわけです。ウォーターハウス・タイプは直角に曲がっているために、かなり長い部分ストレートに息が入りますが、ある部分でほぼ直角にもろにぶつかるところがあります。これによって音響的にはかなり他のものと違いが出てきます。もちろんリードの作り方、および楽器の共鳴のさせ方という面でも他のものと自ずと違ってきてしまいます。
 ブルーク・タイプは、その部分の急カーブ以外は全体的にストレートの部分が一番長いボーカルで、僕の経験から言うと、これは反応が非常に敏感です。これもリードを選ぶボーカルですね。
 こういったもの以外にも注文で色々と作ってくれると思いますが、「ベンド」、「カーブ」の種類に関してはこれくらいです。これでほとんどヘッケルのバスーンのボーカルを作っている要素は説明したと想います。